大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)98号 判決 1948年12月18日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は添付別紙記載のとおりであつて、これに対する判断は次のとおりである。

第一点について

昭和二二年五月三日地方自治法は施行せられ、同時に、町村制は廃止せられたのであるから、特別の規定のない限りは、町村会議員の選挙に関する争訟についても、同日以後は、地方自治法第四章第八節の規定が適用せられるのは当然である。本件のごとく、同日前に、町村制によつて選挙が行われ、その選挙または当選の効力に関する異議申立期間の進行中において、地方自治法が施行せられた場合であつても同様であつて、特に別段の規定はないのであるから、上告論旨のように、異議申立期間に関してのみ、既に廃止せられた町村制第三三条第一項の規定が廃止後においても効力を有するものと解すべき根拠はない。この場合は、町村制による異議申立期間が未経過の状態において、すなわち、右選挙に関して、選挙又は当選の効力を争い得る状況下において、地方自治法が施行されたのであるから、既に町村制の規定に基づいて進行していた異議申立期間が地方自治法の施行により、同法の規定に従つて、当然に伸張せられたものと解するのが相当である。かく解することは、同法施行後に行われる争訟について、同法を適用するに過ぎないのであつて、論旨のいうがごとく、法律を遡及して適用するものではないのである。論旨は理由がない。

第二点について。

本件選挙のように代理による投票又は無資格者による投票があつて、これ等の無効投票が他の有効投票に混入された場合は、右無効投票が果して何人に対して投票されたかは全然不明である。これを本件について言えば一一票の無効投票は何人の得票中に混入されているか不明である。その混入の状態については、色々の場合を想像することができるけれども、若し最高点者二〇五票の佐々木虎之助乃至一二八票の渋谷耕治のいづれかの一人に集中して混入しているものと仮定して、その得票中から差引いて見ても、その得票数は最高位落選者高橋長三郎の得票一一四より多いから、以上の当選者は確実な当選者ということができる。若し落選者の得票中に混入していると仮定しても、もともと落選者であるから問題はない。しかるに一二四票の今藤(略)乃至一一四票の佐々木佐七、山口一四、唯野仁のうち一人の得票中に、右一一票が集中して混入している場合を仮定して、これを各人の得票から差引いて見れば、いずれも前記最高位落選者高橋長三郎の得票より少くなり、当選者となることはできない。勿論右に仮定したように一一票の無効投票が多くの候補者のうちの唯一人に集中して混入しているようなことは、上告論旨のいうように確率の極めて少い場合であるに違いないけれども、かかる場合も可能性としては考え得られるのである。右のように考えて最高位落選者より下位になる可能性のある者はこれを町村制第二七条にいう「有効投票ノ最多数ヲ得タル者」とは断定できないのであつて、同条によつてこれを当選者とすることはできない。これを要するに本件のように無資格者その他による帰属不明の無効投票が他の有効投票中に混入されたときは、それ等無効投票を各当選者の得票から差引いて見て、最高位落選者より下位となる者は、これを当選者と決定することはできないのである。被上告人(宮城権選挙管理委員会)が本件訴願に対する裁決において示した計算方法は以上の理由によつて是認し得るのであつて、原判決のこの点に関する説示はやや適当でないものがあるけれども、右裁決を是認した点において、結局正当に帰するものといわなければならない。上告人の主張する計算方法は、上告人独自の方法であつて正当なものと認め難く、採用することはできない。従つて論旨は理由がない。

第三点について、

町村制第六条は町村内に住所を有する者を町村の住民とし、町村の住民でなければ原則として町村会議員の選挙権を有しないことは、同法第一二条の規定するところである。上告人は右の住所に関し今日のような複雑な社会においては住所が二ケ所以上あつても差支えない旨主張するけれども、若し論旨のように一人で二ケ所に住所を有することができるものと解すれば同一人が二ケ町村で選挙権を行使し或は同一町村で二つの選挙権を行使し得る結果となり、かかる結果は町村制の認めないところであつて、(町村制第一二条第三項参照)選挙に関しては住所は一人につき一ケ所に限定されるものと解すべきである。従つて本件選挙に関し原審が選挙権のないものとして高橋正弥外七名はいづれも、選挙当日他の市町村内におけるその勤務先或は嫁入先に住所があると判断される以上は、本町に住所がない者と認定されるのは当然であつて、上告論旨のように郷里若しくは実家にも住所があるものとすることはできない。更に上告人は選挙人名簿に登載された者はその名簿によつてその地に住所を認め、選挙権を行使せしむべしと論ずるのであるが、かかる解釈は本末転倒の解釈であつて、住所を有するが故に住民となり、住民たるが故に、その属する公共団体の選挙に参与する権利を有するものである(町村制第二二条ノ二第二項参照)。論旨は到底採用することができない。(その他の判決理由は省略する。)

よつて本件上告は理由がないから民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 塚崎直義 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例